熱田護さんの写真展「500GP フォーミュラ1の記憶」へ、最終日に滑り込みで訪れることができた。
この日は、ギャラリートークも予定されていて、熱田さんに色々なお話を聞かせていただくことも出来て、久しぶりにとても充実した一日になった。
ギャラリートークが終わって、じゃんけん大会の後、集合写真にも収まらせていただいた。
さて、いざ帰るとなった時、「もっと観ていたい」「会期を延長してくれないだろうか」と思ってしまった。
同時に、最終日まで来れなかった事を後悔した。。。何度でも観たくなる、心に染みる作品ばかりだった。
まず、素晴らしい作品を観せていただいた事に感謝します。
会場であるキャノンギャラリーSに到着すると、入り口横で、アイルトン・セナの巨大パネルが迎えてくれる。
私が撮ったこの写真を見てわかるのは、この時点で既に冷静ではないということ(笑)
もし冷静ならば、撮影するときに、顔にフレームがかからないように画角を考えていたと思う。
しかし、セナがコースへ向かう為の、ある種”儀式”の瞬間を捉えたこの作品に、一瞬で心を奪われてしまった。
その中に、ものすごい迫力を感じ、鳥肌がたった作品があった。
1993年ブラジルグランプリの中の一枚。
ギャラリートークでも、熱田護さんが一番好きとおっしゃっていた作品だ。
この年、マクラーレンはホンダエンジンを失い、フォードエンジンで戦っていたが、開幕戦の調子は良くなかった。
そして迎えた第2戦の母国グランプリ、ドシャ降りの雨の中、セナは優勝する。
2回目の、そして、最期の母国グランプリでの優勝だった。
ドシャ降りとなり、水煙で何も見えない中、セナがトップに立った。
何も見えなかったけど、セナが何処を走っているかはすぐに、そして、はっきりとわかったと、熱田さんはおっしゃっていた。
どのようにして分かったのかというと、セナの走りに合わせて、声援もサーキットを巡っていたというのだ。
水煙で何も見えない所へカメラを構えながら待っていると、ものすごい声援が近づいてきた。
セナが来た!と思った瞬間に水煙の中から現れたセナのマシン。
その瞬間を捉えた作品だった。
3496ccから774馬力を搾り出すV型12気筒エンジン。
このエンジンは、MP4/6に搭載されていたRA121Eに続く、ホンダとして2代目にして最後のV12エンジンである。
残念ながらタイトルを獲得することは出来なかったが、素晴らしいエンジンだと思う。
2018年の”Legend F1”にて、佐藤琢磨選手のドライブによるMP4/6デモ走行を見た時の感動というか、V12エンジンの”音”が今でも忘れられない(笑)
おなかに響くというか、カラダの中に飛び込んでくるようなエキゾーストノートだった。
もう、こんなに素晴らしいエンジンをF1で観ることは出来ないのだろうか(笑)
エキマニの取り回しを工夫することで幅が拡がることを防いだらしい。
色気のあるエキマニだ(笑)
この時のイメージが、数年前のマクラーレンホンダの”ゼロサイズコンセプト”となっていたのだろうか。。。結果は残念だったけれど。
じつは、この作品を撮影しようかどうか正直なところ迷った。
あまりにも、悲しげな瞳、右目は涙で潤んでいるように見える。
1994年サンマリノGP
とても悲しい週末だった。
決勝前日の予選にて、ローランド・ラッツェンバーガー選手が、クラッシュにより帰らぬ人となってしまった。
翌日の決勝、スターティンググリッド上での表情をとらえた1枚。
熱田さんは、この時、ファインダー越しにセナと目が合っているのがはっきり分かったという。
数枚撮影した後、その状態に耐えきれず、レンズを下げてしまったらしい。
そして、レンズを下げた後も、セナの視線は熱田さんを見ていたという。
ギャラリーの展示にも、写真集にも書かれているが、この時、熱田さんは「良いレースを」という意味を込めてセナに向かって頷いた。
それに返すように、セナも頷いたという。
この数時間後に、アイルトン・セナは遠くへ旅立ってしまった。
スターティンググリッド上で、セナは何を思っていたのだろうか。。。
この写真を見ると、胸が締め付けられそうになるが、それでも、何度も見てしまう。
まるで、セナの瞳に吸い込まれるように見入ってしまう。。。
この当時は、今のようにインターネットも発達してなくて、情報を得る事が難しかった。ましてや、海外の情報など、ニュースで放送されるのを見るだけで、セナが旅立ってしまった事は、夢の中の出来事なのではないかと思っていた。いや、思いたかった。
でも、モナコグランプリで、グリッドにセナがいないのを見て、ようやく実感した記憶がある。
この時、ヘルメットの奥に鈍く光るその瞳には何が映っていたのか。。。
シューマッハ全盛期の、強いフェラーリが好きだったので、フェラーリレッドに心躍ったのかもしれない。
このころのフェラーリは”真紅”と言える、とても鮮やかな色だったと思う。
今の艶消しのカラーは、昔のレッドと比べると少し色気が足りないかもしれない。
熱田さんも言っておられたが、”光る”カラーリングの方が、マシンの絶妙な曲面がキレイに出ると思う。
熱田さんの作品には、光りというよりもマシンの”輝き”が見事に映し出されているものが多い。
フェラーリやレッドブルの艶消しは、その点では少し物足りなさを感じてしまう。
そして、先にある光に向かって駆け抜けていくように見えてカッコイイと思った。
私は、F1マシンに限らず、バイクやロードバイクなどの乗り物は、後ろ、もしくは斜め後ろ70°ぐらいの角度から見る姿が、なんとも言えず好きだ。
理由は分からないけれど、この角度から見て決まった雰囲気を持っているマシンは、良く仕上がっているような気がしている。
停車状態においては、実際にはそうではなくても、少し前下がりに獲物を狙う動物のような雰囲気を感じられるマシンに心惹かれる。
我ながら、意味不明だ。。。(笑)
作品を観て、ギャラリートークを聞いて得た盛り上がりは、そう簡単には冷めそうにない。
そして、冒頭にも書いたが、もっと見ていたい。。。
これはもう買うでしょ(笑)
展示のように、大きなパネルで見ることはできないけれど、写真展の余韻を感じながら見る写真集は、”観る”ことに没頭してしまう。
写真展でパネルを見ているように、時間を忘れてしまう。
この写真集で、またセナに逢うことができる。
そう思える、素晴らしい作品です。
※この写真展は、個人で数枚なら作品の撮影が許可されていました。