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F1マシンが長い

F1日本グランプリを久々に観戦して、改めて思った事が有る。それは「現代F1マシンはすごく長くなった」 という事。
予選-トロロッソ01

サーキットで観戦していた時も、家に帰ってきてから写真を整理していた時も、「どうもレジェンドマシンと今のマシンでは、全長に対する人の大きさの比率がまるで違うな」と感じた。

今回の日本グランプリでは、Legend F1 SUZUKA 30th としてイベントが開かれていて、1980年代のF1マシンと現代F1マシンを比較して見る事が出来たので、余計にそう感じたのかもしれない。

だだ、間違いのない事実が一つだけある

【どちらもそれぞれの格好良さが有るのだ】

※あくまでも個人的感想と考察を記した記事です。

 

どのぐらい長くなったのか

では、F1マシンの長さはどのぐらい変化したのだろうか。
ここでは、フロントホイールとリアホイールの間の長さである[ホイールベース]の変化を見ていくことしよう。

Legend F1 SUZUKA 30thに出走していた、中島悟さんがドライブしていた、キャメルカラーが懐かしい1988年 Lotus 100T
Lotus & Satoru Nakajima
このマシンのホイールベースは2775mm

今年2018年の日本グランプリに出走した、真紅のフェラーリレッドをまとった2018 Ferrari SF71H
Ferrari-SF71H
このマシンのホイールベースは、3678mm!!

30年の間に、実に900mmも伸びていたのだ。
ドライバーの乗車位置と、ヘルメットのマシンに対する大きさの比率に注目してもらいたい。
今年のフェラーリは、ドライバーからフロントノーズまでの長さが長くなり、マシンの大きさに対してヘルメットがとても小さく見える。

他のLegend F1 SUZUKA 30thマシンの一部を調べてみると

McLaren MP4/6 1991
1991 McLaren MP4/6 2972mm

McLaren MP4/13 1998
1998 McLaren MP4/13 3060mm

1998年のMcLarenは3000mmを超えている。
※これ以前に3000mmを超えているマシンがあったかもしれない

その年ごとのレギュレーションに最適化されたデザインを求めた結果、ホイールベースが大きくなったのであろうが、1988年のLotusと1998年のMcLarenでは、10年の間で既に大きく違いが見られる。
Lotus 100Tは、ドライバーの頭の位置がマシンのかなり前にあるように思える。そして、マシンに対するドライバーの大きさの比率がかなり高い。
見比べてみると、シンプルなエアロパッケージとコンパクトなサイズは、昔のF3マシンのように見えなくもないくらいに違うのだ。

 

変化

「なぜ長くなったのだろう?」

こればかりは専門家ではないので、正解はわからない。
しかし、毎年変更されるレギュレーションに対応しながら、最適解を求めた結果として、変化してきたことは間違いないと思われる。
素人ながらに考察していこうと思う。

 

変化 – エンジン規定

まず、エンジンの変化。
1988年はV6ターボエンジンを搭載していたものが、1989年には3.5L V12エンジンとなり、これだけでもエンジン全長が大きくなることから、ホイールベースは拡大される傾向となことは想像できる。

☆1989年以降のエンジンレギュレーション
1989-1994:3.5L NA V12以下
1995-2004:3.0L NA V10/V12以下
2006-2013:2.4L V8
2014-2010:1.6L V6ターボ(ハイブリッド)

エンジン規定の変化によって大きさが変化し、当然ながら重量も変化することから、搭載位置調整による重心位置の最適化も行われているはずである。その最適化の結果による変化もあるかもしれない。
この時、「現代F1のPUは1.6Lと非常に小いのに、ホイールベースが短くならないのはなぜか。。。?」という疑問も生まれる。
この場合、V6ターボエンジンからV12 NAエンジンへ変化した際には、エンジンが大きくなる事は一つの要因ではあったが、実はエンジンの大きさ変化だけがホイールベースが拡大した要因ではないからだと考えられる。

 

変化 – 燃料搭載量

次に考えられるのが、レース中の給油の有無による変化である。
レース中に給油が禁止されると、その分ガソリンを多く積む必要があるため、ガソリンタンクが大きくなる。大きくなったガソリンタンクを納めるために長くなったと推測できる。

また、この場合も、搭載位置の最適化が不可欠である。
レース中の給油が出来なくなることにより、燃料搭載量が増えると、かなりの重量増加となる。40l増量すると、比重が1の水と仮定しても40kgとなる。ガソリンの比重は水よりも軽いが、0.7〜0.8はあるため、30kgほどの増加となる。レーシングカーにとっての30kgは、とてつもなく大きな重量増加である。

 

変化 – 全幅・ボディワーク

予選-フォースインディア
F1マシンの全幅や全高などはレギュレーションによって厳格に決められていて、改定されることも多い。ボディサイズ規定の変化は、空力特性に多くの影響を与えると共に、変化したボディサイズの中で最適なホイールベース寸法を見つける必要がある。
また、現代のF1マシンは空力モンスターと呼んでも良いくらいボディワークが重要であり、エアロパーツの規定が10mm変化するだけで、ダウンフォースが大きく変化するであろう事は容易に想像が出来る。
そう考えると、レース中の接触などによってパーツが脱落した場合には、空力特性が大きく変化してしまう訳であり、その変化した状態のマシンをプッシュして変化前と遜色ないタイムでドライブするドライバーは、とてつもない能力の持ち主なのだ。

変化したエアロ特性によってもホイールベースは変化するはずであり、最適解を見つけるためには物凄い時間と労力が必要となる。

空力設計を行う為には様々なツールによるシミュレーションを行うと思われる。その中でもすぐに思いつくのはCFD解析ではないか。
しかし、CFD解析の結果も、その結果が目的なだけではなく、他のシミュレーションへのデータの一つにすぎないような気がしないでもない。
おそらくは、そんなに単純なシミュレーションだけでは現代のF1マシンは設計出来ない。

CFD解析は、本来初期段階に行うべき風洞実験による検討をPC上でシミュレーションするもので、実験を行う時間やコストの削減に大いに役立つツールである。また、CFD解析ツールを使用することにより、専門的に流体力学を学んでいなくても、ある程度のシミュレーションが可能となり、設計者が設計工程の中でシミュレーションを行える。もちろん、しっかり流体力学を学んだ人の方が、より有効かつようできることは間違いない。
しかし、専門部署へ依頼しなくても自分でシミュレーションが行えるので、結果のフィードバックや対策検討が早くなると個人的に思う。
また、「思いつき」もシミュレーションによって確認できるのは実は有効であると同時に、「ドロ沼への入り口」であるとも思っている。
なぜかと言うと、「明確な正解が無い」ということと、「奥が深くて難しいが、実に面白い」というのが「ドロ沼への入り口」と私が考える理由である。

単一の変更ではなく、複数の変更を組み合わせる事により、組み合わせは無限に広がり、その中の”BEST”を探す事になるが、おそらくその”BEST”にたどり着くことは難しく、仮にたどり着けていたとしても、「もっと良い結果があるのではないか。。。」と思えてしまう為、”BEST”かどうかわからないのだ。
企業にて仕事として解析を行うには、限られた時間(予算)の中で【BEST”に近い”BETTER】を探す事になる。

ただし、F1マシンの開発にかけられる時間と緻密さは私には想像つかないが、私などが行っていた解析の比ではないことは、おそらく間違いない。

 

変化 – スピードレンジ

そして、スピードレンジの変化も見逃せない。
30年前と今年の鈴鹿でのラップタイムを見てみると、

1987
ポールポジション:ゲルハルト・ ベルガー 1’40.042
ファステストラップ:アラン・プロスト 1’43.844

2018
ポールポジション:ルイス・ハミルトン 1’27.660
ファステストラップ:セバスチャン・ベッテル 1’32.318

レース中のファステストラップで11sec、予選においては12sec以上も早いラップタイムとなっている。これでは同時にスタートしても、わずか10ラップでバックマーカーとなってしまい、レース中に5回もラップされてしまうぐらいの差が、この30年の間に生まれているのだ。
これは、トップスピードもさる事ながら、コーナリングスピードも速くなっていると想像出来る。
コーナリングスピードが上がると言うことは、ダウンフォースを含めたグリップ力が要求されると同時に、コーナリング中の安定性も要求される。
グリップ力が高くても、いつ破綻してしまうかもわからないマシンではアクセルを踏みにくいだろう。

ホイールベースが長い車は曲がりにくいなどとよく言われていた。しかし、これは半径Rの小さな低速コーナーの話で、F1マシンが走るサーキットは低速コーナーばかりではないのだ。むしろ低速コーナーの方が少ないと思われる。

こうなると、スピードレンジの上がったF1マシンでは、中速・高速コーナーでの安定性を求めてホイールベースが伸びてきたという事も考えられる。
たとえエンジンが小さくなっても、ホイールベースが短くならなかった理由の一つとも考えられる。

そして、ホイールベースが伸びた結果なのか、結果を求めて伸ばしたのかはわからないが、フロアー面積が増えることにより、ダウンフォースが増えるのだ。フロアー下に空気を流すことによってダウンフォースが発生しているが、ホイールベースが長くなり、フロアー下を通る空気量が増えた結果、ダウンフォースが増えて、よりコーナリングスピードが上がる。その結果、スピードレンジが速くなっていると考えられる。

もっとも、ダウンフォースを増やしすぎると抵抗にしかならないので、PU出力とのバランスが一番大事で、よりパワーのあるPUなら、ダウンフォースを増やすことが出来るというのはよく理解できる。

 

まとめ

まだまだ、素人には分からない理由がたくさんあるはず。しかし、速くそして安全に楽しむ為の変化は大いに歓迎する。たとへホイールベースが4000mmを越えようとも(笑)

しかし、絶対に安全を蔑ろにした変化だけはして欲しくない。悲劇は繰り返して欲しくない。スポーツにおいては安全性は最優先されるべきものであると思う。

2019年は全幅などのレギュレーションが大きく変わるので、どんなF1マシンが登場するのか今から楽しみだ。エンジニアのかたにとっては苦しくも楽しい時間かもしれないが、来年も素晴らしいバトルが展開されることを期待したい!!

 

参考 – 他のF1マシンのホイールベース

1987 FERRARI F187:2800mm
1994 Ferrari 412T:2950mm
2017 MERCEDES:3760mm
2017 Ferrari SF70H:3550mm
2018 Mercedes W09:3660mm

本記事内の画像は、このレンズで撮影してます。

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